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東京高等裁判所 昭和33年(う)2129号 判決

控訴人 被告人 山崎一幸 外一名

弁護人 富山薫

検察官 子原一夫

主文

原判決の中、被告人山崎一幸に関する部分を破棄する。

原告人山崎一幸を罰金一〇、〇〇〇円に処する。

右罰金を完納することができないときは、二〇〇円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。

同被告人に対し、公職選拳法第二五二条第一項の五年間を二年間に短縮する。

被告人色川保の控訴を棄却する。

理由

被告人両名の弁護人富山薫の控訴理由は、末尾に添付する控訴趣意書と題する書面に記載するとおりである。

ところで、原判決は被告人山崎一幸を罰金一〇、〇〇〇円に被告人色川保を罰金一二、〇〇〇円に夫々処し、被告人両名に対し、公職選拳法第二五二条第一項の定める選挙権及び被選挙権の停止期間たる五年を夫々二年に短縮する旨を言渡したのであるが、記録にもとずいて諸般の情状を考量するに、原判決の右の措置は、けだし、相当であつたということができ、これをもつて不当に重きものであつたというべき筋合ではない。公職の選挙に関し利益を供与し、或いはこれを受けるというがごときことは、最も忌むべき所為であつて、公職選挙法違反罪として悪質な事犯たることは、国民一般の常識とする所である。この種事犯を不注意によつて犯したというような弁解は、却つて合理性を欠くものであつて、何人も肯認し得ざる所である。しかり、而して、原判決が被告人両名に対し、右にいうような量刑に出でたのは、被告人山崎一幸から被告人色川保に供与した三、〇〇〇円と同額の金員が、事後において供与者に返戻された事実を考慮に入れた上の措置であつたと見ることができ、まことに妥当なものであつたというべきである。そうして、原判決の言渡にかかる罰金刑につき、執行猶予の恩典を与えられたいと求めるがごとき主張は、事犯の性質並びに態様を不当に過小評価した見解にもとずく所論と認めるの外なく、とうてい採用するに由ない所である。また、選挙権及び被選挙権の不停止を求める所論も、諸般の情状から見て、とうてい、採用するに由ないものとして、排斥するの外はない。それで、論旨第一点並びに同第三点はいずれも理由ないものといわなくてはならない。それ故に、被告人色川保の控訴は、理由ないものとして刑訴法第三九六条に則つて、これを棄却しなければならない。

しかし、被告人山崎一幸に対し、一、一五〇円の追徴を言渡した原判決の措置につき按ずるに、被告人色川保は被告人山崎一幸から三、〇〇〇円を選挙運動の報酬等として供与を受けた翌日に、色川修平と共謀して根本晰膳外一〇名に酒食の饗応をして合計約一、八五〇円を費消し残金は小銭にしてしまつたがそのまた翌々日に到り、母から借りた千円札と自分手持の千円札とを合わせ右三、〇〇〇円相当額の金員を被告人山崎一幸に返戻したことが証拠上明らかであつて右三千円は供与をうけた金員とは全く別個のものであることが認められる。公職選挙法第二二四条前段によつて没収の対象となるのは、収受し又は交付を受けた利益そのものであり、また、同条後段によつて追徴すべき価額は、その没収さるべき利益の価額なのである所からいつて、被告人色川保が先きに自己の選挙運動の報酬等として供与された金員と同額のものを供与者たる被告人山崎一幸に返戻したとしても、その返戻された金員たるや、被告人色川保が収受した利益そのものではない。

だから、その返戻された金員の全部または一部を没収する理あることなく、従つて、没収に代わる価額の追徴を被告人山崎一幸に対して言渡すわけにはいかないのである。しかるに、原判決は右のごとく被告人山崎一幸に返戻された三、〇〇〇円の中から、被告人色川保が費消した一、八五〇円を控除した残額たる一、一五〇円を被告人山崎一幸から追徴する旨の言渡をしたのであつて、これは追徴すべきものではないのに、これをした違法を敢てしたものといわなくてはならない。従つて、この点に関する論旨第二点は理由あるに帰し、原判決中被告人山崎一幸に関する部分は、とうてい破棄を免れない。それで、刑訴法第三九七条第一項に則つて、これを破棄し、同法第四〇〇条但書に従つて更に判決する。

すなわち、被告人山崎一幸に対して原判決の認定した事実を法律に照らすと、同被告人の所為は公職選挙法第二二一条第一項第一号に該当するので、所定刑中罰金刑を選択し、その所定額の範囲内において同被告人を罰金一〇、〇〇〇円に処すべく、右罰金を完納することができないときは刑法第一八条第一項に従い、二〇〇円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置すべく、なお、公職選拳法第二五二条第三項を適用し、情状に因り同条第一項の五年の期間を二年に短縮する言渡をすべきものとする。

よつて主文のごとく判決する。

(裁判長判事 中野保雄 判事 尾後貫荘太郎 判事 堀真道)

弁護人富山薫の控訴趣意

第二点原判決が被告人山崎一幸に対し追徴を命じたことは違法である。

元来追徴は犯罪者に不法な利益を得せしめないことを目的とするものであるから本件の場合被告人色川保から返却された金円は被告人山崎一幸にとつて何等不法の利益ではない。

本件の金円そのものが押収せられて居る場合にこれも犯罪の用に供したものとして没収することは当然でありませうが一概に没収できないときは追徴すると云う規定があるからと云つて追徴の趣旨を考へないで命ずることは徒らに広義の解釈をなすもので違法と謂うべきでせう。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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